筑波大学整形外科の脊椎・脊髄外科グループを紹介しております。スポーツ医学・機能再建を中心とした幅広い研究を行っています。

診療グループ

脊椎・脊髄外科

グループ概要

脊椎・脊髄外科グループでは茨城県内外から多くの患者さんを紹介していただき、後頭骨から骨盤に至るまで、整形外科で扱うありとあらゆる脊椎脊髄疾患に対応して治療を行っております。

大学附属病院では特に手術の難易度が高いとされる上位頚椎疾患や頚胸椎後縦靱帯骨化症(OPLL)や脊髄腫瘍(硬膜内髄外・髄内)および前後合併手術が必要となった椎体の偽関節など、また集学的治療が必須である脊椎腫瘍(原発性・転移性)や化膿性脊椎炎など、一般施設では治療完遂が困難な難症例に対する手術治療を中心に、大学病院に与えられた「最後の砦」としての責務を果たせるように診療に当たっております。

また水戸地域医療教育センターおよび東京医大茨城医療センターでは日常的に治療する機会の多い骨粗鬆症性椎体骨折を含む脊椎外傷疾患や椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎変性後側弯症や頚椎症性脊髄症などの脊椎変性疾患を中心に治療を行っており、県内トップクラスの手術件数を誇ります。

さらに研修病院(関連施設)の多くには日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医が在籍しており、それぞれの病院の特色を活かしたレベルの高い診療を行っております。

医学生および初期研修医の皆さんへ
脊椎・脊髄疾患は整形外科の中でも非常に患者さんが多く特に重要な分野です。後期研修カリキュラムでは脊椎・脊髄疾患に対する正しい診察方法や適切な診断を得るための手順および治療方針決定までのプロセスや基本的な手術手技に対する教育を受けることができるのは勿論のこと、学会発表や論文発表などの学術活動まで幅広く指導を受けることができます。我々は県内唯一の医学部を擁する総合大学として、あらゆる脊椎・脊髄疾患に対応できる本当の意味で患者さんに必要とされる脊椎・脊髄外科医になってもらうことを心掛けております。

整形外科専門医を取得し脊椎・脊髄外科を専門とすることになった後は大学院に進学する医師も多く、学位取得後には手術に加えて研究活動もできる臨床医として各関連病院における脊椎・脊髄診療の中心メンバーになっていきます。またグループ内には複数の海外・国内留学経験者がおり、今後も世界トップクラスの施設への留学派遣を続けていく予定です。ぜひ筑波大学整形外科の門を叩き、そして脊椎・脊髄外科グループの一員になってください。我々はあなたの意気込みを全力でサポートします。そして最後まで見てくれた医学生・初期研修医のあなたと一緒に活動できる日が来ることを楽しみにしています。

臨床研究および基礎研究
以下に脊椎・脊髄外科グループで進行中の研究を紹介します。国立の総合大学で唯一、体育部門と医学部門の両方を併せ持った筑波大学のメリットと、国内トップレベルの研究機関が集結する筑波研究学園都市という地の利を活かした、どれも将来が期待できる魅力ある研究内容です。

1)脊髄損傷で動かなくなった手足を救うために
急性脊髄損傷は四肢機能を突然失い、患者さんにとっても、社会的にも大きな障害を生みます。古くからステロイドの全身投与が行われてきましたが、消化器合併症なども多く、有効性が最近疑問視されており、現在有効性が確立された治療法がありません。

顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte Colony-Stimulating Factor : G-CSF)は抗癌剤による白血球減少症に広く使用されている薬剤で、損傷神経保護作用を有し、急性脊髄損傷に対する新たな治療薬として研究が進んでおります。動物実験での有効性が確認され、臨床試験でも有効性および安全性が報告されており、国内18施設で臨床治験を実施しており、当院でも救急・集中治療部の協力のもとに治験を実施しています。

2)骨粗鬆症でもゆるまない椎弓根スクリューの開発
我々は産業技術総合研究所AISTつくば事業所および茨城県立医療大学整形外科との共同研究で、チタン製インプラントの表面にハイドロキシアパタイトと骨形成因子の一つであるFGF-2を担持させるコーティング技術を開発してきました。スクリュー周囲に新生骨が形成されれば、スクリューの緩みを低減できる可能性があります。このコーティング法は、FGF-2の軟部組織再生効果によって外傷でしばしば用いられる創外固定ピンへのコーティングでは抗感染効果が示されており、椎弓根スクリューでも臨床応用を目指しています。スクリューの緩みの低減が証明されれば、画期的な技術として今後注目される可能性があり、他の整形外科領域への応用も期待されます。

3)一歩先をいく人工骨と骨髄血の応用
整形外科の手術では、骨欠損部の補填や、骨癒合を目指すために骨移植を行うことがしばしばあります。自分の骨を移植する自家骨移植と人工骨移植が一般的ですが、自家骨移植では患者自身の健常な骨を切り取る必要があり、人工骨移植は癒合率で自家骨移植に劣ると言われています。

我々のグループではこれまで物質・材料研究機構(NIMS)および(株)クラレとの共同研究により配向連通孔構造を持ち材料内への良好な血液や骨組織の進入を得られるハイドロキシアパタイト人工骨を開発してきました。現在はさらに同じ構造を持ったβ-リン酸3カルシウム人工骨を(株)クラレと共同開発し、基礎研究・臨床研究を行っています。また、当科の再生医療グループとも連携をして自家骨髄血移植を併用することにより、さらに良好な骨新生が得られるか研究を行っています。

4)安価で精度の高い3次元脊椎実体模型の作成
高度な変形を来した脊椎に対するアライメント矯正手術では安全に手術を行うために実体模型を作成して手術計画を練ることがありますが、これまでの技術では非常に高額な費用がかかっておりました。

大型研修病院(関連施設)の一つである東京医大茨城医療センター整形外科では患者さんのCTから得られた骨格データをコンピューターで再構築して3Dプリンターを使って非常に安価かつ高精度の3次元実体模型を作成する専用の工房を設置し、研究を進めています。将来的には、一部の特殊な症例の術前計画のみならず、通常の症例でも作成して若手脊椎・脊髄外科医の教育にも活用していくことを検討中です。

5)歩く姿を3次元解析して最適な手術方法選択につなげる
加齢により胸腰椎の椎間板や椎間関節が変性して、椎体を支える力が弱くなり、脊柱が側方(側弯)と、前方に曲がる(後弯)変形をきたす腰椎変性後側弯症という病気があります。変形によって体幹のバランスが悪くなり立っていられない・歩けない症状や、脊柱管狭窄による下肢の神経症状や、胸郭の変形による肺活量の低下、逆流性食道炎など多彩な症状を起こします。近年の技術革新によって手術を行う機会が全国的に増えています。

病態の評価に従来は単純X線、CT、MRIなど静止画像をもとに治療方針が検討されていますが、我々は本疾患が歩行によって症状が顕在化することから動態的な評価を重要視しています。術前後に、歩行による脊柱変形の変化や筋活動の評価に、附属病院内に設置された未来医工融合研究センター(CIME)で3次元動作解析とワイヤレス表面筋電図解析を行う臨床研究を行っております。我々オリジナルの解析手法を、世界に発信できるよう研究を進めています。

6)ロボットスーツHALを用いて重度麻痺患者を救う
ロボットスーツHALは、筑波大学システム情報系で開発されたヒトの動作を支援する装着型動作支援ロボットです。両脚用HALは、装着者の大腿皮膚表面に貼付された表面電極から生体電位としての筋活動電位情報を読み込み、身体外部からの重心移動などの情報とともに、装着者が行おうとしている動作を解析し、膝・関節外側に設置されたモータを作動させることで、装着者の下肢動作を支援することを可能としています。

我々は、リハビリテーション部の協力のもと重度対麻痺を呈する胸椎後縦靱帯骨化症の入院患者に対して、術後急性期から、この両脚用HALを用いたリハビリテーションを積極的に実施し、術後経時的に著明な歩行能力の改善を得ています。今後も整形外科脊椎・脊髄疾患を主対象として、急性期、慢性期を問わず、筑波大学発のロボットスーツHALの動作支援技術を利用した新しい運動器リハビリテーションを展開していく予定です。

7)ロボットスーツHAL腰用を利用して重労働者の腰痛を軽減する
ロボットスーツHAL腰用はHALを腰に応用した、重量物を扱う重作業や介護現場ですでに市場導入されている外骨格型ロボットスーツです。腰椎の動作を制限して股関節動作に代替して、その股関節動作をパワーアシストします。また、腰部背筋の筋活動を解析して、最適なタイミングでアシストをすることが可能です。このロボットスーツHAL腰用を用いて、重量物挙上作業や介護作業での、体幹や下肢の関節角度や筋活動変化のデータを解析し、HALが腰部負荷をどのように軽減するのか、解明に取り組んでいます。これらの研究が、重労働者の腰痛を軽減する、腰痛発生を予防する介入につながることができると期待されます。

8)床上安静による肉体変化を科学する
宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波大学体育系、内科系と共同でベッドレストに関する研究を行っています。健常なボランティアの方にご協力いただき、2週間のベッド上安静の後に筋量や筋力、歩行動態や平衡感覚などがどのように変化し、その後どのように回復していくのかという研究です。

これまでにも無重力空間を再現するためにベッドレスト研究を行ってきたJAXAのノウハウや附属病院に設置された未来医工融合研究センター(CIME)内の3次元動作解析システム、体育系の筋力測定装置などをフルに活かした研究といえます。今後は、現在研修病院(関連施設)を中心に行っている骨粗鬆症性椎体骨折(高齢者のいわゆる脊椎圧迫骨折)の保存治療に対する標準プロトコールにおける床上安静期間に高齢者の体がどのように変化するのかなど、実際の臨床現場に合わせた解析も行っていきたいと考えています。

9)整形外科医として国内の医療機器承認業務への関わり
他の研究とは異質な活動として、平成24年より“革新的医薬品・医療機器・再生医療製品実用化促進事業”に伴う人材交流の一環にて、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)に我々のグループから人材が出向しております。PMDAでは通常の臨床・研究業務では知り得ない様々の薬事行政関連業務を行っており、臨床現場で用いられる医薬品や医療機器の有効性及び安全性を評価し承認の是非を検証する業務や、医療機器の開発段階から、開発戦略に係る事前に必要な評価内容を議論する相談業務などがあります。これまで医療機器審査に直接携わった臨床医は極めて少数で、非常に貴重な経験になります。

PMDA勤務で得られる臨床医としてのメリットとして、①機器開発の全体像を理解することで基礎研究から臨床応用への道筋がおぼろげに想像できる、②様々な臨床研究や治験のプロトコールを目にする機会があり,業務中の意見交換を通じて留意点を確認できる、③申請中の機器の動向や次世代評価指標・医療ニーズ機器の検討会での選定内容を通じて、整形外科分野の現在の流行や今後の方向性を直接肌で感じられる、④各分野の専門家や行政側の担当との人脈形成ができる、などが挙げられます。PMDAから戻った後にも役立つ経験であり、オン・ザ・ジョブ・トレーニングを行う中で、自然に科学的・論理的な思考が身に付き、普段の臨床研究を計画する際にもその考え方や方法論は大変勉強になります。このように、従来と異なる視点から「医療」について考える機会にも巡り合えるかもしれません。

Back